あなたの感情を作る原風景

中谷英貴です。

 よく素の自分とは何かを考えます。
 というより感じたいと思います。

 なぜかというと、
 自分がもっとも落ち着くし、
 スムーズに事が運ぶし、
 起こったことを捻じ曲げて捉えないし、
 何より、選択に迷いがなくなるからです。

 日本の原風景というとき、
 思い浮かべることは何でしょう。
 棚田とか、
 里山とか、
 山や海や湖とか
 自然と調和したお寺や神社とか、
 文化遺産とか
 集落とか
 草原とか
 いろいろ思い浮かぶのではないでしょうか。

 どれも古くからあるもので
 今も残っていて、
 とても素朴なものです。

 生きづらさ、行き詰まり感を抱えて
 どうにもならなく感じている時、
 何か生まれてから当たり前に思っていた感覚を
 見失っている気がします。

 冬の夜のひっそりとした町の静けさや
 夏休みの朝の匂い、
 友達と行ったプールの帰りの体の感覚や
 川の土手を歩いた感触、
 秋の夜の虫の声や、
 炬燵で眠り込んで目が覚めた時のけだるさ
 降り出した雨がアスファルトに沁み込む匂い、
 高速で空を動く雨雲、
 窓越しに耳にした木枯らしの音、
 夕食の準備で台所から聞こえてくる鍋の音。

 それらを感じた時代の生活が
 100%幸福につつまれていたわけではないかもしれません。
 人によっては、
 虐待を受けていたり、
 いじめを受けていたり、
 経済的に困窮していたり
 いつも親が互いを憎みあっていたり、
 哀しい場面の連続だったかもしれません。

 でも、そんな時でさえ
 私たちは生きていた。
 真冬の夜更けに外に出れば吐息は白く
 頬に触れる夜気は冷たい。
 そう感じたことには何も嘘はなかったし、
 それは今も自分の根幹を形作ってくれている
 大切な原初の記憶です。

 個々人が持つ、
 自分が生きてきたあかしとしての
 心の原風景。
 見失うことはあっても、
 消えてなくなったりはしません。

 その風景の数々を皮膚感覚で思い出す時、
 私たちは素の自分と再会することができると思います。

 お読みいただきありがとうございました。