街の雀たち

中谷英貴です。中谷英貴です。
 夕方、日が落ちてあたりが暗くなる頃、買い物帰りの歩道で、ふと気付いたことがあります。前々からわかってはいたのだけど、その時ようやく意識に登ったというところでしょうか。
 「ちゅんちゅん」
 声が聞こえる。 とてもたくさん。 でも姿が見えない。 歩道に植えられた街路樹を見上げると、色濃く葉が生い茂っていて、声はどうやらその中から。そういえば、家の周りはどの街路樹でも、鳴き声が聞こえていたような気がする。
 私が暮らす町だけでしょうか? 夕刻になると、小鳥の声で満たされる。 雀です。
 家路を急ぐ人々は気づいていないのか、興味がないのか、実は楽しんでいるのか、ノイジーに感じているのかは、わかりません。

 父が他界したしばらく後、名古屋で暮らす妹が倒れてしまい、関東から駆け付けた足で、入院手続きその他のために駆けずり回ったことがありました。 その頃の私を知る人曰く、あくせくしてピリピリして近寄りづらかったた、とのこと。 そりゃ、しょうがないじゃん。 相手も事情を知っているので、今はそう言って笑ってくれます。
 『バカの壁』の養老先生の言葉ではありませんが、原家族が離散する憂き目にあった時も、父が他界した時も、妹のことがあった時も、花鳥風月に乏しい状態だったと思います。空を見上げる余裕も、花を愛でる余裕も、風を感じる余裕も、月を見つめる余裕もなかった…というより、そんなところへ向く意識はかけらも存在しなかったというのが本当のところでした。。
 今は彼女も新しい人生を歩んでいます。私は結局何もしてあげられなかったけれど、時は味方になってくれたみたい。 この世にたった一人の妹として、納得いく道を歩んでくれればと思います。

 …立ち止まり、街路樹を見上げたまま、そんなことをぼんやり思い出していたら、近所に住まわれているらしい初老の方から声をかけていただいた。 「にぎやかでええですね」とのこと。 「みんなで仲良う生きているんですな」
 仲良くにぎやか。 そんな生き方も素敵だな、と思います。 ちょっと外に出て、きれいな夕暮れの空を見たり、すれ違いがてら見知らぬ方とあいさつを交わしたり、小鳥の声にほっとしたり、そんな時間がもてることが、幸福なのかな、と悦に浸っていました。
お読みいただきありがとうございました。