たどり着くベースキャンプ

中谷英貴です。

 大学から一人暮らしを始めたのは、
 そうしないと通えない、
 遠くの学校に行くことに決めたからでした。

 でも、本音を言えば、
 父母の、人を人とも思わない争いを、
 これ以上見るに堪えられなかったことが
 最大の理由だったわけですが。

 その争いは私がいなくなったから消えるわけではなく、
 むしろ仲裁役にして父母の視線を逸らす役割をしていた
 息子がいなくなったことで、
 胸を抉るような凄惨な応酬が激化したといいます。

 父が家を出たことを叔母からの電話で知った後、
 何度もなんども、
 自分は家に残るべきだったろうかと
 結果が出ていることに対して、
 くよくよと悩み続けていました。
 叔母はいつも我が家を気にかけてくれていたから、
 「あんたんとこは、もうダメかもしれんねえ」
 という言葉にもただ、うん、としか返せなかった。

 しばらく眠れない日々が続きました。
 ご飯は喉を通らず、
 胃液を吐くことが度々起こった。
 なぜ自分がこんな目に、と、何かを呪っていました。
 何か、とは、実は自分自身であることに気づくまでには
 かなりの時間を要したものです。

 その間、日常で口をついて出てくるのは、
 自分の力量やら見識やら自立心やらを脇に置いた
 気に入らない会社の出来事や
 気に入らないニュースや
 とにかく気に入らないことばかり。
 世の中それしかないのかと、
 今の自分から突っ込みを入れたくなるほど、
 不平、文句の嵐の日々で、
 それも結局、一番焦点を当てなければいけない場所から
 視線をそらすためでした。

 やがてそう言い続けることの
 アホらしさ、ムダ、そして何よりその行為が
 自分攻撃してるにすぎないことがわかるときが
 遅まきながらやってきました。
 少し間をおいて、
 自分が自分であるだけで充分であることが
 身にしみて感じられ、
 生活と心が落ち着くようになりました。

 ここが自分らしく生きる足場でありベースキャンプ。
 次は何をどうしようか。
 そうやって、次のベースキャンプ、またその次と
 進むようになりました。
 自分のペースで、一つ一つ足場を確認して進む日々。
 いきなり頂上にはたどり着かないだろうけど、
 これからもそうやって行けば、
 大きく崩れることはないはず。
 自分と仲良く、
 自分を大切に、
 自分のペースで
 自分を信じて生きていけば。

 そう確信しています。

 お読みいただきありがとうございました。