夢に出てきた風景が混乱を乗り越えるきっかけの一つになった

中谷英貴です。

 何かに追い詰められているように感じていた頃、
 毎晩のように同じ夢を見ました。
 海の夢です。

 追い詰められるといっても、
 具体的に何かに追い詰められているわけではないのに、
 なぜだろう、そう思い続けながら
 ずっと苦しいと感じていました。
 お金、人のつながり、健康。
 どれもハッピーな状態ではありませんでしたし、
 ゆるゆると良くない方向に向かっていたとは思いますが、
 かといって明日どうにかなってしまいそうなほど
 末期的な状況だとは思っていませんでした。

 結局のところ、
 当時どうにかなってしまいそうだったのは親の方で
 そんな親を見続けることがとても辛く、
 そのことに混乱していたことに気づきながら
 何をどう対処したらよいかわからない日々が続いていました。

 海の風景はそんな折、断続的に夢枕に現れました。
 見知らぬ風景です。
 街中で育った私にとって海とは、
 たまに釣りに出かける程度の場所で、
 何が理由だったかはわかりません。

 なぜかスカンジナビア半島北極海側に立って
 じっと海を見つめているシーンだと理解してました。
 北極海のはずなのですが、
 海は波が夕陽に映し出されてとても暖かい色にきらめいていました。
 北極圏が夕陽に照らされる、ということ自体
 自分がその場所を知らない理由になるはずなのですが、
 そのシーンはその後何度も夢の中に出てきて、
 日中も時々思い出しては、何なのだろうと気になるようになりました。

 それが11月の終わりくらいまで続き、
 そこから当時はまだ、近所のJTBの店長さえ情報を持っていない国、
 フィンランドへ出かけるきっかけとなりました。

 当時の私にとってそれは
 ある種の現実逃避であるとともに、
 初めて国外から冷静に自分の状況を見つめることにもなりました。
 旧ソ連邦の影響を色濃く受けてきたが故に
 当時のフィンランドは、
 21世紀に旅行する人々が知る、
 ちょっとおしゃれで華やかな国というよりも、
 地味でお世辞にも明るくはなく、
 当時の日本のお年寄りを上回る外国人に不慣れな国民が
 質素に生きている国でした。

 そんな中に数週間身を置いていると
 それまで張りつめていたものが和らいだ感じがして
 ほっとした記憶があります。
 それから数年、毎年冬になると
 雪が積もる国へのチケットを予約していました。

 後年、心理学を学んだときには、かの国が
 初期の統合失調症を対話のみで治療する
 Open Dialogという手法を生み出したこと、
 欧州でも有数の自殺率の高い国であることなどを
 知るにいたり、
 いまだどこかで妙な縁を感じる国です。

 夢がきっかけで出かけた国ですが、
 それによって、決してドラスティックに
 私の人生の何かが変わったわけではありません。
 ただ、そうやってちょっとしたきっかけをもとに起こした行動が
 ともすれば人にも自分に対してもひねくれがちで
 ともすれば社会から引っ込みがちになりながら
 自分が苦しい理由をどこか他の場所へぶつけがちだった
 当時の私が
 何とかその時々を乗り越えることができた一助となったのも
 事実だと思います。

 直感に従って行動してみるということが
 自分を変えるために言われることがあります。
 これはそのちょっと変わったバージョンだったのかな。

 お読みいただきありがとうございました。