物語の受肉化・内在化

中谷英貴です。

 私たちの体には、私たちの生を保つための心のエネルギーがあります。
心のエネルギーが生を保つ、ときくと、?が湧くかもしれません。ですが、たとえ話ではなく、文字通り心のエネルギーが生を保っています。

 1950年代の実験ですが、アカゲザルの赤ちゃんは、母親から隔離されると、どれほど栄養が行き渡っても衛生的な環境にあっても、1週間以内に死んでしまうことが確認されています。どれだけ衛生的な環境においても、栄養たっぷりのミルクを与えても、その結果は変わらなかった。
 そこで、中にお湯を通して温かくした毛布で母親の姿を象ると、ずっとそこにしがみついたまま何とか生き延びるようになったそうです。

 これは、サルの赤ちゃんの話ですが、人で置き換えても大きな差はないでしょう。つまり、愛着を人の心に宿らせる、動物的な感覚が存在することを明確に示していると思うのです。

 そう考えてくると、私たちが幼いころから日々接してきた、五感に届く数々の刺激は、まさにそんな意味合いを持つことがわかります。

 大人になるにしたがって、私たちは五感を使って、物語を内在化する能力が発達していきます。最初に知るのは、ご存知のとおり、親の物語ですが、やがてメディアから吸収したり、友人知人や遠い誰かのストーリーだったりするようにもなります。
 そうやって見聞きした、素敵な人生を送ろうと思うようになったり、負けないように生きようと思ったり、あるいはそういう人生は勘弁してほしいと思ったり…。

 でも、なぜだか元気が出ない。
 勇気づけてくれる物語が、メロディが、美しい風景が、身近にあるのに、一歩が踏み出せない。

…彼らが提供してくれる物語を彼らの物語の中で受け入れている限り、彼らの物語自体を演じている限り、それはただのお祭り騒ぎにすぎません。それはエンターテインメントを楽しむだけならいいのですが、そこに自分の生にも通ずる生き様を取り入れたいのなら、それでは不十分。
 あなた自身に基づいた物語として、心身に取り込むことが必要です。内在化とも受肉化とも言います。

 本当に、ほんとうに、心の底から願い、必要な物語を心の血肉として宿したとき、私たちはその方向へ向けて変化を始めるのだと思います。
 
 お読みいただきありがとうございました。